牛乳と珈琲

遺恨


遺恨 忘れがたい恨み。
icon 偶像、肖像、聖像。アイコン、疑似記号。



Chapter1 寄生するもの 
Chapter2 疑似平和   1 2 3
Chapter3 崩壊     1 2 3
Chapter4 君は誰か   1 2 3
Chapter5 いずれ    1 2 3
Chapter6 いつか    1 2 3


遺恨

兄 建(たける) 
妹 智花子 首の後ろに傷がある。
菌類 キン



兄・建は、数週間前に貼ったはずの
妹・智花子の絆創膏が汚れないことを不審に思う。 →
問いただせば「智花子」として生活しているのは
心の弱った智花子に寄生し、体を借りた「菌」だという。
智花子の代わりに人間生活をおこなう対価として、
体を借り人類の生態調査を行なっているのだと言う。

建は猛烈に反対し、
「菌」に智花子から出ていくよう抗議するが、
智花子自身は、建と話し合うことを拒んだ。
泥沼化する話し合いのなか、
「菌」が入り込んだのは智花子の首後ろの傷口からだと知り、建はさらに激怒する。
幼少期に付けられた傷で、健と智花子にとって
暗い生活の幕開けとなった事件の傷跡だったからだ。
収拾のつかなくなりかけた話し合いに、
「菌」は自分が寄生するのは智花子が元気になるまで、
体は必ず智花子に返すと主張し建に説得を試みる。
建は思いを巡らせ、不登校気味であった智花子が学校へ行くこと、
智花子自身がそれを望んでいること、
「菌」が人格的には無害であり、智花子の味方と推定したことから、
代わりに生活してくれるのであればと「菌」の存在を受け入れた。
智花子がもとの暮らしへと歩み寄る日を願って。


そして彼らの秘密の生活が幕を開けた。
奇行を示すも、擬態の優秀な「菌」は基本的にはうまくやっており、
智花子のクラスでの立ち位置もある程度安定していた。
建は、「菌」のコミカルな奇行をサポートをしながら、
よく笑う「菌」を通じて過去の智花子の面影を思い出していく。

菌は、智花子と呼び分けるため「キン」という名を得て、
建・智花子・キンの三人の間でだけ、その名を呼び合う。
擬似的に穏やかな生活のなか建は智花子と対話を試みるが、
菌類の寄生以前からぎくしゃくとしていた溝は簡単には埋まらなかった。

キンの正体は、群から逸れた菌類。
一時的な記憶喪失により迷子になっており、
生態調査と称して人間に寄生していたが、虚勢であった。
記憶を取り戻していくうちに、人ならざる性質が露見していく。


キンは時折、自分の身体が「智花子」でも「キン」でもない時間があることに気づく。
キンの本能とも言うべき意識が行動を起こし、キンの制御できない時間があることに。
建に相談するか迷っているうちに、悲劇は起こる。

智花子の、キンの口もとは野鳥の死骸と血で塗れていた。
路地裏で野鳥を捕食しているのを発見した建は、慌てて智花子を連れ帰る。

ようやく智花子との対話を持つ。
智花子はなお対話を言葉少なに拒もうとするが、
この日ばかりはキンがそれを許さず、
智花子を奥へと匿うキンが半ば無理やり建との話し合いの場に智花子を引き摺り出した。
久しぶりに対面する兄妹の対話は進まず、
キンと心の距離の開いた智花子は何も言わない。
見かねたキンは、智花子が「キンに体(意識)を譲る」時間が増えていること、
最終的にキンに「体のすべてを譲ろう」としていることを打ち明けた。
智花子は、必要なのはよく笑うキンであって、
自分の形をした誰かで良いのだと打ち明けた。
智花子の秘めた思いに建は困惑し、
キン自身も智花子に身体を返したいと嘆願した。
しかし智花子がそれを拒んでいるため、体から出られないのだという。
-中略-
出ていかなければいけない、というキンの言葉に、
智花子は頑なに首を振った。
自滅しようとする智花子の自我に、キンと建は必死に呼びかける。
この数日で過ごした、偽りの家族のような時間が智花子の胸に蘇る。


キンは、自身が弱っていること。
このままでは死んでしまうことを告げ、
必ずまた会うためにも、自分を智花子から出してほしいと懇願する。

-中略-
葛藤を経て、智花子はキンと別れることを決意する。
智花子と出会った水辺へ向かう。
智花子がキンと出会った日と同じように水辺に浮かび、
傷痕を水に晒せば、傷口からキンが出ていくと考えた。
泣きじゃくる兄妹に、
キンはこれは別れではない、
菌類はこの世で最も大きな生き物だから、
必ずまた会いにくるのだと告げる。

再会を約束し、兄妹と菌は別れを告げる。
夏草の枯れた水辺、秋がやってくる。

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更新履歴
更新履歴
2023年
01月27日 トップ
07月30日 02〜05ページ目追加
09月08日 ストーリーライン(1800字程度)追加